NVisionは、分子の量子状態を制御する技術で、MRIを使う研究を支える装置を作っている会社です。主力の「POLARIS」は、調べたい物質から得られる信号を強め、体内で物質がどう変化するかを画像で調べるために使います。さらに、その分子技術を量子コンピュータの開発にも広げています。
ドイツ・ウルムに本拠を置くNVision Quantum Technologies GmbHの事業には、すでに注文を受け付ける研究用装置と、開発中の計算技術が並んでいます。どちらも「量子技術」ですが、顧客に届けられるものと、事業の進み具合は異なります。
簡単にまとめると?
- MRI研究で使う信号を強める装置に加え、消耗品や保守・研究支援を提供する会社です。
- 現在のPOLARISは前臨床研究向けで、通常の診療に使うための承認とは区別する必要があります。
- 分子を使う量子コンピュータにも取り組んでいますが、大規模な計算装置の実現は今後の開発課題です。
MRI本体ではなく、測るための物質を準備する
MRIは磁気を利用して体内などの情報を画像にする装置です。NVisionのPOLARISはMRI本体を置き換える機械ではありません。MRIで測りたい物質の信号を強める準備をする装置です。
その処理を「過分極」と呼びます。分子の中にある原子核の磁気的な状態をそろえ、通常は弱い信号を測りやすくします。NVisionが提供する研究用システムでは、炭素13を含むピルビン酸などを用います。ピルビン酸が別の物質へ変わる様子を追うことで、細胞の代謝、つまり物質を使ったり変換したりする働きを研究できます。
顧客は、がんや生理機能などを調べる大学・研究機関です。装置を導入する目的は、単に鮮明な形の画像を撮ることにとどまりません。実験条件によって代謝がどう変わるかを繰り返し測り、研究に使えるデータを得ることです。
装置、消耗品、運用支援を組み合わせる事業
NVisionの製品案内は、過分極を行う装置に加え、ピルビン酸の前駆体と触媒、パラ水素の容器などの消耗品、保守、研修、画像の取得・解析支援を挙げています。パラ水素は、過分極を作る処理に使う水素です。装置を納めて終わるだけでなく、研究室で測定を続けるための材料と支援も提供する構成です。
研究用POLARISでは、準備済みのキットと自動化した処理によって、実験ごとのばらつきや操作の負担を減らすことを狙っています。製品ページには、ミュンヘン工科大学で、げっ歯類を対象とした前臨床研究の測定手順に組み込んでいるという紹介もあります。
現在注文できる製品と、将来の医療用途は分けて見る必要があります。同社は、POLARISを前臨床研究用として提供し、臨床研究向けのシステムは開発中と明記しています。また、過分極した画像用物質も研究段階であり、通常の診療への使用について規制当局の承認は得ていないと説明しています。

この違いは、顧客が何を買えるかに直結します。研究室で有用な測定ができることと、その結果を一般の患者の診断や治療判断に使えることは同じではありません。医療への応用が広がるには、研究での検証に加えて、用途に応じた規制上の手続きも進む必要があります。
もう一つの柱は、分子を使う量子計算
NVisionは2026年5月、量子計算の開発を「PIQC(ピクシー)」として公表しました。分子に量子情報を持たせ、光を通じて情報をやり取りする仕組みを、光回路のチップに組み込む構想です。MRI研究用の装置とは別に、計算するためのハードウェアを作ろうとしています。
2026年10月28日にNatureで公開された論文は、一つの有機分子の状態を光で読み出し、制御する研究を報告しています。実験は4.5Kという極低温で行われました。POLARISの室温での処理という特徴を、そのまま量子計算の装置に当てはめることはできません。
同日の企業発表では、光回路を手掛けるHyperLightとの協業と、2026年末までにチップ上の動作を実演する目標が示されました。分子一つの制御ができた段階から、多数を組み合わせ、誤りを抑えて役立つ計算をする段階へ進めることが課題です。論文の成果を、大規模な量子コンピュータの完成や計算サービスの販売開始と読むことはできません。
資金調達と、収益を生む事業の違い
NVisionは2026年5月に、Abbottを主要投資家とする5,500万ドルの資金調達を発表しました。この金額には、欧州投資銀行による1,700万ドルのベンチャーローンが含まれます。全額が新たな株式出資というわけではありません。同社が示した累計調達額は1億2,000万ドルです。
資金調達は研究開発や事業拡大を支えるもので、製品の売上や利益ではありません。今回確認した公開資料では、会社全体の売上高・営業利益と、装置・消耗品・支援業務それぞれの収益を比較できる決算は確認できませんでした。
事業を見る際は、POLARISの導入先で測定が継続され、消耗品や保守への需要が続くかが一つのポイントになります。一方、PIQCでは、分子の研究成果をチップ上の再現性ある動作へつなげられるかが重要です。前者の研究機器事業の進展と、後者の開発計画は、それぞれの成果で確かめる必要があります。
株式と購入先
2026年11月5日時点で、NVision Quantum Technologies GmbHの上場銘柄と、日本の一般的な証券口座からの現物株購入先は確認できませんでした。楽天証券・SBI証券・松井証券の公式公開情報でも、この法人の買付案内は未確認です。出資者のAbbottや、名前の似た別企業の株式はNVisionへの直接投資とは異なります。
参考資料
- NVision公式サイト(事業・本拠地)
- NVision「Imprint」(正式法人名・登記情報)
- NVision「Quantum-Enhanced Metabolic MRI」(用途・提供段階・規制上の状態)
- NVision「POLARIS: Product」(製品・消耗品・支援・比較図)
- NVision「PIQC Quantum Computing」(量子計算の構想)
- NVision「NVision Expands from Quantum Sensing to Quantum Computing to Accelerate Discovery and Validation of New Therapies」(2026年5月13日)
- Roggorsほか「A single-molecule spin–photon interface」Nature(2026年10月28日、DOI: 10.1038/s41586-026-11147-6)
- NVision「NVision Unveils First Manufacturable Molecular Qubit, Breakthrough Validated in Peer-Reviewed Nature Paper」(2026年10月28日)
